7/10(金) 朝礼のことば

 1986年、今から34年前、私たちは、初めて海外へ修学旅行に行きました。行先は韓国です。この当時、韓国は『近くて遠い国』とよばれ、韓国への修学旅行にはいくつかのハードルがありました。日本は、朝鮮半島を1910年から45年までの35年間、植民地として支配しました。そのため、40年経っていたにもかかわらず、反日感情を抱いている人もいました。さらに、1950年から朝鮮戦争が起こり、半島は3年間にわたって激しい戦場となりました。戦いは休戦となりましたが、北緯38度線を境に、韓国と北朝鮮という分断国家となり、現在に至っています。休戦とは、戦争の一時停止を意味し、再び戦争がいつ始まってもおかしくないということです。それに、韓国は急激に発展を遂げていましたが、安全について不安視する声もありました。このような状況の()で、韓国への修学旅行を実現できたのは、当時の校長先生であったシスター池田の、『実際に外国を見ることで、高校生に国際的な視野を養わせたい』という、熱い()いがあったからです。この旅は、貴重な体験となりました。今思えば、楽しいというよりは、日の丸を背負った緊張感あふれる旅であった気がします。その後、私たちは何度も修学旅行で韓国を訪ねました。韓国は急速に『近くて近い国』になっていきましたが、突然日韓関係や朝鮮半島情勢が悪化して、修学旅行が危ぶまれたこともありました。その中で、変わらなかったことが一つあります。それは、現地の高校生との交流です。韓国の高校生は、フレンドリーで積極的で、とても日本に関心を持っていました。光塩の生徒たちもすぐに打ち解け、2時間という短い時間でしたが、毎回最後は涙・涙の別れとなりました。子供の頃から日本と朝鮮半島の複雑な関係を身近に見てきた私は、若い人たちが何の先入観も持たずに、自然に接する姿を、本当にうらやましいと思いました。

 ところが、二年前の夏、私の意識は大きく変わりました。テレビでたまたま韓流時代劇を見て、すっかりその魅力に取りつかれてしまったのです。最近は韓流時代劇だけでなく、今の韓国社会が描かれた現代劇も大好きです。韓ドラの魅力はいろいろありますが、『日本と似ているようで全く似ていない、似てないようでとても似ている』― ここに、私は面白さを感じています。韓ドラファンになって見えてきた、日本と朝鮮半島の大きな違いがあります。一つ目は、日本は四方を海に囲まれた島国で、侵略された経験がほとんどありません。一方、朝鮮半島は、すぐ隣に大国中国があります。強力な国ができると、真っ先にその影響を受け、中国とどう向き合って行くべきか選択を迫られるのです。二つ目は、韓国の若者が置かれた状況です。韓国には徴兵制があり、男性は30歳までに2年近く兵役に就く義務があります。兵役が無理な場合は、社会服務要員として役所や福祉施設などで働きます。その間、自分の仕事や勉強などは、すべて中断しなければなりません。韓流スターやK-POPアイドルといえども同じです。人気絶頂のスターやアイドルが、次々と軍に入隊していきます。『国民の義務か自分の将来か』という選択を迫られる韓国の若者は、心の中に大きな葛藤をかかえているのではないでしょうか。

 今、日韓関係は、戦後最悪と言われる状態にあります。その上、朝鮮半島情勢は、ますます厳しさを増しています。こういう時こそ、先入観や感情論で判断するのではなく、相手国を客観的な目で見、真剣に向き合っていくことが必要なのではないでしょうか。私は、これからも朝鮮半島について、知る努力を続けていきたいと思います。