9月最後の金曜日です。今年の夏は長く、日中は暑い日が続きますが、朝晩はようやく秋の気配が感じられるようになってきました。「秋」というと、皆さんは何を連想するでしょうか。スポーツの秋、食欲の秋、とさまざまですが、私はやはり「読書の秋」をあげたいと思います。
先日、2023年度の「国語に関する世論調査」で、月に1冊も本を読まない人が6割を超えることが公表されました。5割を超えるのは初めてだそうです。私は本を読むことが好きなので、少し寂しく感じました。
私にとっての読書は、単純に「楽しい」ものです。読書を通して、知らなかった世界を知ることができます。野球、陸上、バレー、バスケットボール、ラグビー、テニス、剣道、弓道、飛び込み、自転車ロードレース……私が読んだことのある小説で取り上げられていたスポーツです。運動が好きな人でも、実際にすべてをプレーすることはなかなか難しいのではないでしょうか。でも、読書を通してならそれができます。「スポーツの秋」は読書の中でも楽しむことができるのです。
「食欲の秋」という人にも読書はおすすめです。小説の中には食べ物や食事のシーンが出てくることも多く、料理そのものをテーマとした小説もあります。作家の人は料理好きや美食家が多く、エッセイなどで食の世界を楽しむこともできます。
本を読んでいて、「自分が味わっていた感覚はこれだったんだ」と、はっとすることがあります。それまで感じていたけれどうまく言葉にできなかったことを、明確に言葉で説明している文章に出会ったとき、そうだそうだ、と嬉しくなります。
よく言われるように、本には悩みの答えが直接書かれているわけではありません。でも、長い歴史の中で自分と同じように悩んできた人がいること、さまざまな悩みがあることを示してくれます。悩んでいる自分にそっと寄り添ってくれます。今いる場所とは別の世界があることを教えてくれます。読書は現実逃避なのではないかと思うこともありましたが、それでもいいと思うのです。一つの世界しかないと、苦しくなってしまうことがあります。今いる場所とは違う世界があると知れること、それも読書の醍醐味です。翻訳家で児童文学研究者の清水真砂子さんは、エッセイの中で、「本は窓だったと思う」と書かれています。「本がなかったら、私は今いる狭い世界だけがすべてだと思っただろう」と。
本を通してのさまざまな出会いの中では、理解できないものとの出会いもあります。大学で教えていた清水さんは、学生たちに「わからなくていい」と話されます。「わからないことがすてきなの。どうやっても歯が立たないものに出会うこと。自分の小ささを思い知らされること。それが歓びとなるような世界との出会いをしたい」と。知っているものとの出会い、知らないものとの出会い。読書はそれらを与えてくれる、とてもすてきなものだと思います。
もちろん、何を面白いと感じるかは人それぞれです。スポーツやゲームがそうだ、という人もいるでしょう。でも、私にとってそうであるように、誰かにとっても読書は面白いもの、助けとなるものになり得ると思うのです。世の中にはたくさんの本があります。必ず、自分にぴったりの本があるはずです。たくさん読むのもいいし、一冊の本をじっくり読むのもすてきなことです。自分なりの楽しみ方を見つけてほしいと思います。
そして、こうやって本の話ができるというのも幸せなことだと思っています。世界には「読まない」のではなく、本そのものを手に取ることのできない状況にある人もいます。手元にある役割を終えたと思う本を次の必要な人のところに届ける、という図書委員会の「ありがとうブック」の取り組みにもぜひ参加してください。
4月から始まった今年度も折り返しです。これからの季節に、本を手に取ってみてください。自分の世界を広げる、あるいは深めるきっかけが待っているかもしれません。本を読めることに感謝しつつ、自分なりの「読書の秋」を楽しんでほしいと思います。